フィギュアスケートの荒川静香選手はもともと受け口だが、本人は気にして、テレビの前などでは、わざと下あごをひっこめているように見受けられる。
受け口をグーグル検索にかけると、矯正歯科のページがあたる。反対咬合とか下顎前突とかいって病気扱いである。見た目の問題だけでなく。うまく噛めない、発音が汚くなるなどの不利があるらしい。志村けんのアイーンも、実際のところ、受け口をからかっているのだろう。現代では受け口は不遇である。
江戸時代では受け口は非難の対象ではなかった。どちらかといえば色っぽいとうけとられていた。五代目瀬川菊之丞は受け口が有名で、歌川国貞画「八犬伝犬のさうし」の五代目瀬川菊之丞「毒婦船虫」や「尼妙椿」などは、妖艶である。たしか、川柳では受け口の女は淫蕩なのが定型だった気がする。
いつぐらいから、受け口が悪者になってしまったのか。中勘助『銀の匙』(明治45)に「すこしうけ口な愛くるしい脣」とあるので、まだ大丈夫らしい。芥川龍之介『芋粥』(大正5)に「彼が五六年前に別れたうけ唇(くち)の女房と、その女房と関係があつたと云ふ酒のみの法師とも、屡(しばしば)彼等の話題になつた。」とあるのは、受け口の女は淫乱であるとの迷信を引きずったものだろう。
受け口の評価の変容には、おそらく西洋的な美人観が影響していると思われるが、それがいつごろなのか、わたしにはわからない。
荒川静香が受け口だといって、色っぽいとほめる人もなければ、淫乱の証しとけなすひとももはや出てこない。私の知る限り、受け口の女性が性的に奔放だという傾向はない。美人不美人も、口だけの問題より、顔全体の作りで判断したほうがよい。受け口の美人もいれば、不美人もいる。荒川選手はもちろん前者である。
補足:五代目瀬川菊之丞の画像が見たい人は、
早稲田演劇博物館のデータベース
http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html
の画像の部に入って、「毒婦船虫」や「尼妙椿」で配役検索にかけてみてください。
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