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2007年4月21日 (土)

文楽2.0

 人形浄瑠璃とアニメは似ている。生身の人間が演じることを見せものにしない点で共通する。人が出てこないと、人が演じるよりも細かいことが表現できる。人間のできない演技もできる。人間が一人で演じれば済むのに、三人で一つの人形を扱うのは非効率である。にもかかわらず、三人遣いへと人形操りが進化したのは、その点につきる。
 また、人形芝居もアニメも外国では子どもが対象であるのに、日本では大人向けになっているのは、この利点による。

 人間が出る芝居は、どうしても役者に配慮しなければならない。千両役者をできるだけ多く集めればいい芝居になるかというとそうではなく、それぞれに見せ場を作ってやらねばならない。作劇に制約が多い。

 人が演じなければ、役者の見せ場に配慮する必要はなく、純粋に筋が洗練できる。元禄頃、まだレビュー色の強い初期歌舞伎に対して、人形浄瑠璃が近松門左衛門に見られるように、文学性の高い戯曲を持ち得たのはそのためである。

 人形浄瑠璃の魅力は文学性の高さであったが、歌舞伎も人形浄瑠璃から戯曲を移入し、作劇法を洗練させて、次第に追いついてくる。
 十八世紀を通して、人形浄瑠璃の人気が落ちるのと反比例して、歌舞伎の人気が上がっていったが、ともに文学性の高い戯曲をもとにするなら、人間が演じるほうが、観客を魅了する。

 「なんといっても歌右衛門でした」「私は海老様が大好きです」そういった、役者好きを生み出さない点で、人形浄瑠璃は負けている。
 劇場に行けば、上手の客席に座って、本舞台などそっちのけで、じっと大夫を見ている女の観客もいる。かつてはほぼ黒子だった人形遣いが、顔を見せるのも、人形遣いの地位向上とともに、観客の心を動かす要素の一つとして認められるようになった証しだろう。だが、人形が演じるという点で、人形浄瑠璃は歌舞伎に決定的な差を付けられている。

 この差を埋める方法が一つある。歌舞伎が「役者萌え」なら、人形浄瑠璃も「人形萌え」を作り出せばよい。現在、人形浄瑠璃の人形は、立役、女役など定型のものである。これを海洋堂に頼むとかして、もっと「萌える」人形にしてはどうだろう。
 義太夫は残すのも一手だし、現代風の音楽、声優を使うのも一手である。

 岡田斗司夫が、着物を着て、扇子と手ぬぐいをもって、座布団に座ってハナシをすれば、なんでもよいとする、落語2.0を提唱している。
 それと同じように、語り物つきの人形劇という形式を生かして、大人向きの現代的な人形劇、いうなれば文楽2.0を作れないものだろうか。

 残念ながら、以上のことは妄想にすぎない。落語は一人でするので、はじめやすいが、人形浄瑠璃には大勢の人が必要である。文楽はユネスコの世界遺産に登録された伝統芸能であり、既存の芸能者から、逸脱を期待するのも無理である。

 私が大金持ちなら、小林一三が宝塚歌劇を生み出したように、財を投じて、文楽2.0を実現させることも可能なのだろうが、今の身の上では宝くじにあたっても無理な計画である。

 とにかく、人形浄瑠璃とアニメは似ている。アニメはいろいろと姿を変えながら、世界に通用する価値を創造している。人形浄瑠璃が、その洗練にもかかわらず、もはや伝統芸能としてしか生きるすべがないことを、惜しむのである。

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コメント

こんにちは、初めまして。
突然のコメント失礼します。
実は今、英国の大学に通っているのですが、卒論のテーマで「アニメと文楽の関連性」というものを研究しています。
iwademoさんの記事を読んだ事がこのトピックを選んだ理由の一つで、ぜひ卒論内でも引用させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?
演劇を専攻しているもので、iwademoさんの舞台裏方としての経験を書かれたお話もすごく興味深く楽しく読ませて頂いてます。
半年ほど更新されておられないようなのですが、もうブログはされないのでしょうか・・

それでは、突然のコメント本当にすみません。
どうぞよろしくお願い致します。

投稿: 楠本 | 2009年4月21日 (火) 07時44分

楠本様

丁寧なコメントありがとうございます。
引用はご自由になさってください。典拠元が書いてある限り、論文への引用を防ぐ法律はありません(小林よしのりが裁判をしていましたが)。

私のヨタごとを、卒論にまでなさるとは、こそばゆい感じですが、ご健筆お祈りいたします。

演劇関係の記事も読んでくださったようで、これもありがたいやらこそばゆいやらです。
私のブログは検索からのアクセスが多いのですが、演劇関係の記事にはあまりアクセスがないようなので。

ブログは燃えつきてしまった、わけでもないのですが、なんとなく気乗りしなくなって、書いていません。まわりでブログをやっていた人たちもけっこう止めているので、ブログとはそういうものかもしれません。
前に書いてから半年ほど経ったと指摘されて、驚いています。
忙しいときより、忙しくないときのほうが、筆が進まないので、また忙しくなったら、書くかもしれません。
そのときはよろしくご笑覧ください。

Iwademo

投稿: Iwademo | 2009年4月21日 (火) 14時01分

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