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2007年3月28日 (水)

一斉

 大先生(私の先生の先生)から翻字(くずし字を今の字にする)の仕事をいただいたことがある。江戸期のある地方俳人の旅行記なのだが、「一斉」という字が出てきて困った。文脈上、「いちどき」の「いっせい」にも、号の「一斎」にも、どちらにもとれるからである。「斉」と「斎」はほんらい別字である。ならば字の通り「斉」と思うかもしれないが、昔の人も「斎」の略字として「斉」を使った。

 大先生にどちらでしょうかと尋ねると、「その時代に(いっせいにの意味で)「一斉」という用(字)法はありません」と、辞書も見らずにきっぱりとおっしゃった。私は戦慄した。用例があるという証明に比べて、用例がないという証明は数段難しい。容易に言い切れるものではない。

 うちに帰って、辞書をひいたところ、日本国語大辞典第一版は、『西国立志編』を用例にあげる。角川古語大辞典ではそもそも立項しておらず、CD-ROMの全文語句検索にかけると、やっと二例。

「一斉{いちどき}に来てはのびて悪し、又とぎれて箸を休めては食へねえ。順々によく渡らねえでは否{いや}だ」〔古今百馬鹿・下〕

「近世楊弓を好む者、都鄙を界せず、貴賤を論ぜず、一斉に以てこれを翫と為す」〔楊弓射礼蓬矢抄・総序〕

 『楊弓射礼蓬矢抄』は貞享四年刊と前期のもの。後期の三馬の滑稽本『古今百馬鹿』(文化十一)は、使っていても「いちどき」とよませる。
 あることはあるのだが、使われていないという判断はほぼ正しい。もともと『荘子』にも見える言葉だが、明治期に入って、軍隊用語と関連して、「一斉」が普及したのではないかと推測する。
 大先生の件で、博識とはなにか、思い知った。

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