« 鬼のように | トップページ | くりかえしの文章 »

2006年5月 8日 (月)

殿・様

masapfさんから「取り急ぎ用件まで」(2006.05.05)にトラックバックをいただいたので、それについて、急遽書くことにします。

masapfさんの2006.05.08の記事(http://masapf.exblog.jp/)には

自分の中では、上司や年上の方には”様”を使い、後輩や同僚には”殿”を使う、
という区別をしていたのですが、これまで、”○○ 肩書き+殿”みたいな使い方
をされているメールがとても多く、悩んでしまいますね。(きちんと調べれば良い
のですが。)

とありました。

これはおそらく、「長山健次郎課長殿」といったメールをもらったものの、「課長 長山健次郎殿」が正しいのではないか、とお考えになったのでしょう。

私の感覚ですが、「様」と「殿」では、「様」の方が敬意は上。会社関係など、組織間のやりとりでは、「殿」をとりあえず使って、親しくなると場合によっては「様」にするというものでした。
先の問題について、「長山健次郎課長殿」よりも「課長 長山健次郎殿」が正しいと感じていました。
「殿」を私信に書くことはほとんどありません。貰う場合ですが、あきらかに見下しての「殿」がわずかながらにあって、その他は親しい友人からです。どちらにせよ、腹は立ちません。

さて、実際はどうなのか確認するため、手っ取り早く、辞書を引いてみました。

『角川古語大辞典』「どの【殿】」に

姓名・称号・官職などに付けて、その人の尊称とするもの。手紙などのあて名の下に付けることを殿書(とのがき)という。(太字は引用者)

とあって、用例は、

「正清しのびこゑにたそととへば、佐殿{すけとの}聞きしり給ひ、頼朝爰に有りとこたへ給」〔金毘羅本平治・中〕
「祇王こそ入道殿よりいとま給はつて出たんなれ」〔平家・一・祇王〕

などが引いてありました。
 姓名・称号・官職につけられるので、私も不審に思っていた「姓名 肩書き+殿」は、原則正しいことになります。そういえば、「細川越中守様」とか「吉良上野介様」とかいいますもんね。

おもしろかったのは、『角川古語大辞典』「とのがき【殿書】」にあった用例。

まず言葉の説明を引いておくと、

手紙などのあて名の下に「殿」という敬称を付けること。また、その手紙。「様書」よりは敬意が低くなる。

で、これはよいとして、

「我あふ女郎へ遣す状の上がきの事、位の高下によらず、其身大身なりといふとも、なれぬ内は、をしなべて様書{さまがき}たるべし。月を重ね知音となり、度々の式日をつとむる程の人よりは、殿書{がき}たるべし。其中に、高名の太夫職へは、すこし延慮{ゑんりよ}もあるべきか。附物には、猶以殿書{がき}たるべし」〔色道大鏡・二〕

『色道大鏡』を簡単に説明すると、元禄初年まで(江戸時代ではまだ前の方)に書かれた遊里百科事典で、一種の手引き書。該当箇所の面白さがわからない人のために、無理して現代語訳を試みると次の通り。

自分がつきあう女郎へ遣わす手紙の表に書くあて名について、女郎の地位の高い低いに関係なく、たとえ自分が身分が高くて金持ちでも、仲が深くならない間は、すべて様書にすべきである。月日が経ってなじみの間柄になって、しばしばあるお祝いの日(物日のことだろう。五節句にある祝日や月に二度ほど決めてあった特別の日。遊興費が高く設定されるので来にくい)をこなせるほどの人となってから、殿書とすべきである。(とはいうものの)そのなかでも、名高い太夫職(最上級の女郎)へは、少しは遠慮した方がよいか。従者(附物はよくわからないがそう解釈しておく。贈り物のことかもしれない)へはなおさら殿書にすること。

こういう気のつかい方、今も昔も変わらないなぁという感じです。

|

« 鬼のように | トップページ | くりかえしの文章 »

コメント

勉強になります。私は初対面というか、初めてメールを書く上役の人に殿を使うことに違和感を感じていました。「様」でしょうと。
肩書きの扱いにもつながることなのですが、私は「氏名+様」が自然だろうと思っていました。あまりそこに常識のずれはなかったようで、ほっとしました。
肩書きって突然無くなる場合もあるし、しかし人間そのものは変わらないので、やっぱり氏名に様をつけるのがいいな。

投稿: masapf | 2006年5月 9日 (火) 00時06分

おっと、焦点は上役に殿をつかうことだったんですね。
会社間のやりとりは、殿というのは、何かのビジネスマナーの本で覚えたと思うのですが、折を見て、確認しておきます。
手紙の規則は、江戸時代のと現代のとでは、けっこう差があるわけで、どこらへんで今のような形になったのか、調べてみたらおもしろいかもしれません。

投稿: Iwademo | 2006年5月 9日 (火) 06時09分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/103175/9960035

この記事へのトラックバック一覧です: 殿・様:

« 鬼のように | トップページ | くりかえしの文章 »