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2006年3月23日 (木)

この一戦

 戦いが天下分け目の決戦であることが、当事者にとって理解されている場合とそうでない場合がある。戦国時代の合戦にたとえるなら、前者が関ヶ原の合戦であり、後者が小牧長久手の合戦である。徳川氏が興廃をかけた一戦として小牧長久手の戦いをとらえていたのは当然だが、この戦いの結果、徳川を軍事力によって滅ぼすことができないことが諸大名にはっきりし、それが関ヶ原までつながっていくことを考えると、豊臣家にとっても興廃を決した一戦だった。それがより豊臣家に自覚されていれば、小牧長久手の戦いも別の様相を示しただろう。

 スポーツでも、興廃のかかった一戦がある。ラグビーでは、1995年に145対17でニュージーランドに大敗した試合がそれである。技術面のみならず、カジノ浸りや二日酔いなど不真面目な姿勢での敗戦であることは伝わっていないようで、みな知っている。以後ラグビーはやりたい人だけやれば、といったスポーツになった。バレーは五輪出場権が命綱である。男子はぷっつりと切れ、女子は切れたようで切れていないようだが油断はならない。

 さて先日、日本が優勝したWBCだが、韓国に二敗を喫したままで終える、あるいは三度破れることがあれば、それが野球凋落のはじまりとして記憶されるようになったはずである。当初は、WBCの重要性を日本の球界あるいは日本人はよく理解していなかったのではないか。すべてプロ選手で構成された日本代表の試合はアテネ五輪でもやって、決勝進出がならなかった。だから、WBCで真の日本代表が敗北しても、それもありだと思っていた。

 だが、格下と思われていた韓国に連敗したことは、多くの人々に衝撃を与えた。今年はサッカーのワールドカップである。2002年には、サッカーのあおりをくって、野球の視聴率は上がらなかった。もし、WBC韓国に敗戦したまま終わっていれば、多くの人が野球に見切りをつけたはずである。

 すべての選手をみれば、層は日本の方が厚い。しかし、戦争の基本は戦力集中である。韓国は大リーグをはじめ、できるだけ良い選手を集めた。しかも、アテネオリンピック不出場の屈辱を晴らす気に満ち、また兵役免除のニンジンがぶらさがっているので、士気が高い。小牧長久手の戦いのように国力(ここでは野球の)で劣っている側はこれが生き残りにつながっているとわかっているだけに、はじめから必死である。

 日本はWBCの試合が進むにつれて、事前に囁かれていた打力不足が白日の下にさらされた。大リーグには、松井秀喜がいる、井口がいる、城島がいる、日本にもセパの主力打者が残っていると言ってももう遅い。負けは負けとして記憶されるのみである。準決勝は、日本野球にとって、「興廃この一戦にあり」の試合だった。

 結果は日本の勝ちで面目は保たれた。日本に二回勝って三度目に敗れた韓国にとってはさぞ無念だろうが、項羽と劉邦の垓下の戦いみたいなもので、最後に勝った方が勝ちなのである。

 さて、三度目の韓国戦だが、日本の勝利は不思議ではない。
 まず、投球制限が準決勝で緩和されるので、日本にとって楽になった。WBCでは、投球数は、最大で1次リーグが65球、2次リーグが80球、準決勝と決勝が95球までとなっている。日本の最大の武器は投手力(特に先発の)である。野球は江夏的に見れば、投手と打者の一対一の対決であり、投手が一対一の勝負に勝っていけば当然試合も負けないのであって、この大会に有力選手が招集できたかは問題でなくなる。

 準決勝で先発した、日本球界の至宝、上原はきわめて制球力のある投手で、少ない球数で長い回を投げ抜くことができる。それまでの試合日本代表の継投はかならずしもうまくいっていたわけではなく、七回まで無失点で投げ抜き、継投の危険性を減らせたのは大きい。

 過去二度の対戦で、韓国選手の情報が手に入っていたのも勝利の要因だった。野球の場合、初顔合わせなら、投手力によって、番狂わせが起こりうる。アテネ五輪で日本がオーストラリアに負けたのもそうであり、WBCで米国がメキシコの八人の継投の前に敗れたのも、よく知らない相手と戦ったからである。

 加えて、雪辱に燃える日本に対し、兵役免除のカードを使い切ってしまった韓国とで、士気が逆転してしまった。

 王監督は、神算鬼謀の智将ではない。采配よりも代表選手をまとめられる人徳を買われて監督になった人である。今回、継投も打線の組み方もうまかったわけではない。福留のホームランで帳消しになってしまったが、その直前の打者の五番多村に七回表無死二塁、走者松中で、送りバントを命じたのは、巨人時代の悪い采配のようでげんなりしてしまった。長距離打者に送りバントを命じてもうまくいかない。アメリカ戦でも多村はバントを失敗している。結果、スリーバント失敗である。

 守備のこともあるが、ここが勝負どころとみて、送りバントをさせるなら、宮本を出すべきだった。とはいえ、三塁に行っても、足の悪い(怪我していたらしい)松中を確実に犠牲フライで返せる選手は控えていない。

 王監督が復調を認めていた福留が代打で結果を出したからよかったものの、采配については王さん相変わらずだなぁと思わせるものだった。

 しかし、韓国はそれ以上に采配に迷いがあって、二番手下手投げのキム・ビョンヒョンはひっぱりすぎ、三番手のボン・チュングンと四番手のソン・ミンハンは交代が早すぎである。寒いところでの小刻みな継投は危険である。

 結果さえみれば、日本がやっと順当に勝っただけなのだが、韓国チームは恐るべき相手であった。野球において、韓国が今後決して侮れないことを肝に銘じなければなるまい。

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