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2005年10月 5日 (水)

オーディション

 先日『SHINOBI』で黒谷友香が妖艶な女性の役をしているのを観て、第三舞台や遊眠社のようにメジャー化することを目指していた小劇場の劇団に私がいた頃に、かつて一緒に芝居をしたHさんのことを思い出した。HさんはTという同じく小劇場のとある劇団の看板女優だったが、私のいる劇団の芝居に参加してくれたのだった。Hさんが何歳だったか正確には知らないが、私より五つぐらい上だったのではないかと思う。女優の小松千春をちょっと肉感的にした感じの綺麗な女優さんだった。いつも鼻にかかったような声をしていて、色っぽい人だった。黒谷友香が着ていたようなぞろっとした着物をつけた娼婦の役をしていたので、Hさんのことを思い出したのである。
 黒谷友香が決して演技上手でないように、Hさんも細かい演技は得意でなかった。劇団の主宰者で演出家のDさんは、そこが気に入らなかったようで、その公演では頼みこんで出てもらったにもかかわらず、次の芝居では使うつもりはなかった。次の公演は、劇団の規模からすれば生意気にもオーディションを行った。Hさんはオーディションにも来てくれたのだが、本人は出る気も受かる気も満々だったらしくて、選ばれなかったことにかなり憤慨したことを、Hさんと私の共通の知り合いであるMからのちに聞いた。
 選ばないのに、オーディションに来てもらっていたのは、オーディションに人が集まるかどうか不安だったこともある。しかし、最初から選ばないつもりなら、Hさんにはその旨を伝えておくべきだった。なぜ、そういったことに気づいてDさんに進言できなかったのか、今となっては大変恥ずかしく思う。芝居に関わっていたころは、自分の傲慢さ生意気さでいろんな人を傷つけてきたが、このこともその一例である。
 Hさんとは、オーディションのすぐあとあたりに、ぐうぜん山手線で乗り合わせたことがある。夏だったのでHさんが白地に花柄の入ったワンピースを着ていたのと、Hさんが前と変わらず私に親切だったのを覚えている。私の方は、深いことはまったく考えずに話しかけていたと思う。もうオーディションの結果は出ていたはずである。
 Hさんはその後普通の会社員の人と結婚して、すぐ子どもを産んだと、それから一年ほどしてMから聞いた。芝居をしていたHさんも素敵だったが、子どもを抱いているHさんも綺麗だっただろうと思う。

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