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2005年9月23日 (金)

『THE WINDS OF GOD~零のかなたへ~』

 おそらく五年ほど前だったと思うが(かなり曖昧です)、深夜放送でエル・カンパニーという劇団の「THE WINDS OF GOD~零のかなたへ~」という芝居を題材にして、テレビドキュメントがあった。「THE WINDS OF GOD~零のかなたへ~」は、劇団の主宰者で主演俳優の今井雅之が作・演出した、当劇団の代表作である。現代の漫才師コンビが交通事故に会って、気がつくと第二次世界大戦時の特攻隊員になっているという内容である。
 私は観たことは、今に至るまでない。だが、戦争という極限の状況におかれた若者の姿を描くことで、生と死の意義を考えさせる芝居として、早くから大変評判が高かった(初演は平成三年。私が知ったのは平成六年ごろ)。ドキュメントの前半は、観劇中のお客を写すことで、観客がいかに芝居に感動しているか、涙ぐんだかを伝えていた。
 次に、実際に特攻隊員として招集された老人を連れてきて、芝居を観てもらい感想を述べてもらうというという展開になった。ぼうっと画面を眺めていた私は、おそらく老人が芝居に感激して、今井雅之をはじめ役者達に感謝するという場面が来ることを想像していた。
 じっと目をこらして身動きひとつせず芝居を観つづけた老人は、芝居が終ると介添えの人に連れられて、杖をつきつき、まだ舞台衣裳のままの役者たちの前に出てこういった。「自分がいた特攻隊というものを漫才と一緒にされて非常に腹立たしい。とても侮辱された気分だ」。その後も、老人は涙を流しながら役者たちを罵りつづけ、今井雅之をはじめとする役者たちは、直立不動でそれを聞き続けた。
 私は芝居に関わって、実際の戦争を題材にした芝居をいくつも観てきたが、人の生き死にを見世物にすることは根本的に卑しいことだと思うに至った。かつて、劇団で扱う芝居のネタにつまったときに、劇団主宰者のDさんに戦争を扱いましょうと進言したことがあるが、Dさんは頑として受け入れなかった。その後、友人を亡くすことがあったり(病死ですが)、劇場アルバイトで、戦争を扱った芝居をいくつも観る経験を経て、なぜDさんが戦争を題材にしなかったのかわかってきた。いかに観る人のためになったとしても、戦争を扱った芝居を作る側に、どこか自分たちが卑しいことをしているという意識はあっていいのではないかと思う。
 老人にとって、漫才師が特攻隊員になるというのも(戦前の漫才師の地位が非常に低いことも影響しているのかも知れない)、特攻という行為がこういったお芝居の題材になることも受け入れがたかったのだろう。
 では、私は本記事で「THE WINDS OF GOD~零のかなたへ~」はひどい芝居だと言いたいのかというとそうではない。
 団塊の世代高樹のぶ子は『熱い手紙』に、戦後生まれの筆者と戦前戦中生れの人々とは体験において超えられない壁があり、体験していないという負い目がモラトリアム人間を生んでいるのだと書いている。
 だが、他人の経験は自分の経験と同じかという哲学上の他我問題では、否という結論が出ている以上、他人の経験の不可知は、世代だけの問題ではない。同じ世代のよく知っているはずの人間同士でも、経験は同じではないし、実際どう感じたかなどは誰とでも知り得ないのである。ただ、自分の経験からそうなのだろうと推測するしかない。
 私は「THE WINDS OF GOD~零のかなたへ~」を、知りようがないからと高樹のぶ子のように戦争と戦争体験を棚上げしてしまうのではなく、積極的に解釈して現在の自分たちに生かそうとしている点で、非常に評価している。

補記:九月十日に、テレビ版があったが、三十九度の熱をだしていたので観る余裕はなかった(ブログの文章は前もって書いているので更新できますが)。これからも積極的に機会をつくって観ようとは思わないが、他人の評価を見る限り、よい芝居なのではないかと思っている。

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コメント

「THE WINDS OF GOD」
初めまして坂口火菜子と申します。
突然の書き込みを失礼します。
かつて、この作品が産声を上げた時、今井さんと共に生み出した演出家の奈良橋陽子はご存知ですか?
現在では「LUST SAMURAI」「SAYURI」のキャスティングディレクターもしているのですが
もちろん原作者である今井さんとは又違う角度かも知れませんが
彼女もこの作品を心底愛し、かつては今井さんと共に、そしてそれぞれに求めてきました。
2006年の2月とうとう彼女が演出する最後の「THE WINDS OF GOD」を池袋でやります。
役者陣は時に元特攻隊員の方達の貴重なお話しを伺いながら
この作品を2年半ずっと求めてきた者達です。
私はそのプロデュースをしている者なのですが
是非是非よかったらいらっしゃいませんか?
きっと又、良い時間を持っていただけると思います。
その情報を書かせて下さい。

『THE WINDS OF GOD』
http://windsofgod.web.fc2.com/

演出・奈良橋陽子  原作・今井雅之

【出演】
山田将之
菟田高城
矢田政伸
手嶋和貴
堀ノ内真平
半田浩平

「お笑い名人大賞」を目指す
現代のフツーの若者2人がある日事故に遭う
2人は昭和20年太平洋戦争の終戦間際に
神風特攻隊員として目を覚ました
現代人の2人に特攻隊員の気持ちなどわかるはずがない
次々と特攻任務を遂行していく隊員達――
そして2人は――

ここまで来させて頂いたのも何かの縁だと思います
どうぞよろしくお願いします&ありがとうございました
もし不適切な内容でしたらお手数で申し訳ありませんが削除してください
坂口火菜子

投稿: 坂口火菜子 | 2005年12月29日 (木) 20時21分

情報ありがとうございました。
ちょっと二月の予定がまだ決まっていないので、なんともいえないのですが、機会があれば是非拝見いたしたいと存じます。
シアターグリーンとは懐かしいです。
公演の成功、祈念いたします。

投稿: Iwademo | 2005年12月30日 (金) 08時08分

突然の書き込みにも関わらず温かいお言葉ありがとうございます。出演者共々魂込めて進ませていただきたいと思ってます!

投稿: 坂口火菜子 | 2006年1月 6日 (金) 21時34分

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